【イベントレポート】イタリアチーズ料理講習会 2026/10/19 @代々木
(文章・写真 櫻井芙紗子)
2026年10月19日、東京・代々木の服部栄養専門学校 別館にて、イタリア大使館貿易促進部主催の、イタリアチーズ料理講習会が開催された。
まず冒頭にアンナ・イエーレ氏 経済成長・輸出促進部(農業)から開会の挨拶。

2026年7月現在、イタリアには欧州連合から認可を受けたDOP/IGPといったいわゆる原産地呼称制度で保護されている57種類のチーズ・乳製品がある。(注:STGを含めると59種類。出典:配布資料ブックレット『おいしくたのしいイタリアチーズ』)
これら原産地呼称制度(あるいは地域的保護)は、EPAの取り決めによって日本でも保護されており、イタリア各地の酪農家・チーズ工房ごとに、地域独自のブランドとして尊重されている。
今年は日伊修好160周年の記念の年であり、日本とイタリアの通商と外交と親善が160年続いてきたことを祝し、挨拶を締めくくった。
この日の講義は前半はイタリアチーズの概論と試食、後半は料理の実演だった。概論はミラノ在住のイタリアチーズテイスターの池田美幸氏、後半は京都の料亭 菊乃井の堀知佐子氏が担当した。

まず前半の講義は、5種類のチーズ(アジアーゴDOPフレスコ、パルミジャーノ・レッジャーノDOP, ペコリーノ・トスカーノDOPフレスコ, タレッジョDOP, スカモルツァ・アフミカータつまり燻製チーズ)を試食を交えて生産地域、製造方法についての詳しい解説があった。
それによるとイタリアのチーズは羊乳(および山羊乳)が最も長い歴史があり、牛乳は中世の5世紀以降という。個体の小さな羊や山羊と比べ、大きな牛を育てるのは容易ではないからだ。その意味ではパルミジャーノ・レッジャーノも1000年という歴史があるが、羊や山羊の数千年、何万年と比べると、まだ比較的、新しいほうに位置づけられると言うのだ。
また、世界には2000種類のチーズが存在すると言われるが、イタリアの約500種類とフランスの約500種類で世界の半分のチーズを占有しているということにも驚く。つまり原産地呼称が登録されている57種類を除いても、まだ440種類近くがイタリア全土にあり、連綿と作られ続けている訳である。
このようにイタリアには地域ごとのチーズがある。池田氏によれば、「よその地域のチーズを食べる習慣がほとんどないため、それが小さな工房のチーズが連綿と残ってきたことの大きな要因である」という。

つまり地産地消が基本であることが、名もないマイナーなチーズを守り育てるのだ。
また、工房に住み着いた微生物も含めて、その場所でなければできないチーズというものがある。一日2回も搾乳する酪農家と、その乳を加工するチーズ工房の責任者(カザーロという)という人に品質や味わいが大きく依拠している。また、乳のほかに凝乳材として乳のみ子牛のレンネット(第4胃)を使うことで自然で優しい味わいにするのか、ベジタリアンの多いイタリアでは植物性の凝乳剤(カルチョーフィ=アーティチョークの乾燥粉末)を使うかなど、やり方は人によって異なる。
工場で大量生産されるものだけに席巻されるのではなく、土地ごとの小規模生産者の伝統技術やノウハウに大きく依拠しているものが続いている点でも、イタリアのチーズは、ワインとまったく同じ性格を持っている。

チーズの位置づけ、役割も両国では少し違う気がする。たとえばフランスでは、レストランで食後のデザートの代わりに、チーズ・プレートを選択したりするが、わたしはイタリアではあまりそういうメニューを見たことがない。
もちろん、イタリアでもチーズそのものを楽しむ機会はある。たとえばパルミジャーノ・レッジャーノをカチ割りにして、アペリティーボのつまみにするようなケースもあるだろう。だが、チーズだけをあれこれ集めて食べ比べるというよりは、イタリアのチーズはむしろ食事の中で、料理のなかで、野菜や肉などと同じ食材のひとつ、あるいは調味料代わりに使われることの方が多いのではないだろうか。手元であるもので、飽きさせずに、何とかするという精神が、そうさせているのかもしれない。
わたしのこの問いは、この日の後半の実演では、和食におけるイタリアチーズを用いたレシピで解き明かされた。和食という異種格闘技が、イタリアチーズの持つ多面的な役割と魅力を引き出しているように思った。


たとえば、「スカモルツァ・アフミカータのあぶりずし」は、チーズの弾力のある食感を生かして、タコやサーモンの上に乗せたスカモルツァを炙ってその魚介とチーズのはごたえと、酢飯がうまく調和していた。

さらにアッビナメント(組み合わせ)として、寿司に合わせて、「パルミジャーノ・レッジャーノDOPと梅の小吸いもの」が提供された。これはすりおろしたパルミジャーノ・レッジャーノに日本の昆布とかつお出しを合わせた、和食の「すり流し」という調理技法だが、堀氏いわく「うまみにうまみを加える相乗効果」を体験した。
酸味とえん味をそえる梅で、より洗練された味わいに仕上がっていた。このレシピにおけるパルミジャーノ・レッジャーノは、コクやうまみを加える優れた調味料であると同時に、だしにとろみや舌ざわりといった「すり流し」の食感を与える食材でもある。面白い。
来場者の質問で、堀氏が「イタリアのチーズは思ったほど重くない」ことが、和食に応用するうえでとても助けになったと答えたが、まさにそのイタリアのチーズが持つ多様性と柔軟性が、世界で展開していく上での可能性を意味しているのかもしれない。

今回は5種類の日本ではまだあまり知られていないチーズが主題となった理由について、イタリア大使館貿易促進部から、イタリアのチーズを束ねるAssolatte協会からの要請で、前述の10種類のチーズの提案があり、そこから今回は5種類を推す旨の説明があった。確かに日本ではさまざまなチーズが受容されているが、それ以外のチーズにも光を当てることにも意味がある。
残りの5種は、より消費者に馴染みのあるチーズで、ゴルゴンゾーラやモッツァレッラ・ディ・ブーファラ・カンパーナなどが含まれ、別途レシピがオレンジページnetで公開予定であるという。
最後に、イタリア大使館貿易促進部のジャンパオロ・ブルーノ部長の閉会の挨拶と関係者への謝辞があった。
今回の企画は、和食におけるイタリアチーズの持つ可能性についての「きづき」を提供することを意図していたとあり、まさにその通りとなった。きょう参加した日本のプロの料理人やチーズに携わるプロフェッショナルをはじめとして、これらの「きづき」を生かして、イタリアチーズが、イタリア料理の枠を超えて、さまざまな場面で登場して役立てられるようになってほしいとの思いで最後は締めくくられた。


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雑誌『エクラ』2026年11月の書評掲載記事





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